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 あの夜。
 薄暗い工房に、落とすことのない炉の火が小さくチロチロと揺れ、
 鉄粉ですっかり黒ずんだ作業台で、気もそぞろに整理していた。

 突然、真昼のように光と熱が膨れあがり、炉の火が激しく燃え上がったのだ。
 炉の火は魔法が編み込まれた特別な火であり、鍛冶師の命で加減が調整される。
 鍛冶師の干渉なしに、こうして暴走することはあり得ない。
 最も近しい存在である火に対し、初めて感じる恐怖。足が竦み、呆然とする耳に、
 色めき立った華やかな歓声がギルドチャットで湧き上がった。

 それが、ハワードが生まれた瞬間の出来事。






 代々鍛冶師を生業にするアルトアイゼンの長い血筋の中で、
 水の加護を持つ子供が生まれたのは初めてだった。

 火と相容れぬ水であるのに、ハワードは火に愛されていた。
 火に愛され、火に欲されるほどに、ハワードに流れる水の気が悲鳴をあげる。
 強い火の気にあてられては、幼いハワードはよく熱をだし体調を崩した。


 ハワードにどれだけ天賦の才があったとしても、
 水の気を持つハワードが操る火は歪なものにしかなりえない。
 そしてそれはいずれ、彼が創り出す武器にも顕れる。


 「ねえお父さん。ぼくいつか、お父さんのような鍛冶師になりたい」
 まだ幼い頃のしたっ足らずなハワードの声が聞こえる。
 それは決して叶わないし、決して叶えてはいけない。でもそれでも……。



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