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想像しろ。想像させろ。楽しませ酔わせ苦しませろ。
それができるのは、言葉だけだ。
無数の言葉で、たったひとつの言葉で、おまえを想像の世界へ引きずり込んでやる。
それができなければ、おまえに伝わらなければ、言葉に何の意味があるというのだ。


俺が行けない明日にこいつらは行ってしまう。 一秒後一分後一時間後そこに俺はいない。 明日は、晴れるんか?雨が降るんか?どんな風が吹くんや? 明日の朝ご飯は何や?明日はみんなでどこに行くんや。 なぁ俺に教えてくれんか。俺は今日で終わりなんや、 今で終わりなんや。もう今しか、ないんや。
「言っただろう、俺はお前と共に」 どこまでも落ちていく、と。
息を吐き出すように笑みを浮かべると、首を絞める指に力が込められた。


視界の端に青紫と白と黒の色彩。アサシンクロスは思わず振り返った。青みがかった紫の服に襟元や裾に白のファー、それはチェイサーという職業の正装。黒髪のチェイサーは背中を出して座り込み、真剣な面持ちでポリンを睨んでいた。正確に言うと、ポリンルーレットを、である。
チェイサーなど掃いて捨てるほどいるのだ。分かっている分かっているそれなのに身体は過剰に反応し視線が求め彷徨う。鬼はもういない。どこにもいないと分かっていて捜し、いないことに気付き途方に暮れる。 険しい顔をしていたのだろうか、振り返った視界の中を女性が足早に走り抜けていった。アサシンクロスは俯き自嘲に口許を歪ませた。黒髪のチェイサーに背を向け歩き出す。

龍之城では一年に一度の龍神祭が開催されていた。あちらこちらで催し物があり、多くの観光者や冒険者で其処此処に人垣ができていた。囃し立てる声や野次があがれば歓声が沸き、愉快そうな笑い声が続く。 アサシンクロスは主の命を受け、人捜しをしていた。プリーストで探偵をしているというその者は、主の後輩らしい。
「放っておいてもなんら問題ないんだが」まぁ一応格好だけでも、と明け透けなもの言い。
「……はい」
「ついでに祭りでも楽しんでこい」
どうやらアテイルという名であるらしい捜し人の手がかりを掴むため、老人の話に耳を傾ける。それは鬼を倒しに行った若者が、鬼と化す物語。
「夢は叶わない方がいいのです」何も変わらない生ぬるい時の中で、鬼と共に生きていたかった。
「ふぉふぉ、それもそうかもしれぬ」

「新しい夢を見つければいいんや」
「ふぉふぉ、それもいいかもしれぬのう」
アサシンクロスは弾かれたように振り返る。目を見開いた。そこに、鬼が立っていた。




 
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