前頁 文章メニュー





 ブラックスミスは、ぼけーっと釣りをしていた。

 ギルドの資金をつい博打に使い込んでしまい、
 幼なじみでありギルドリーダーである騎士にしこたま怒られた。
 延々と続く説教からようやく解放され食堂で待っていたのは、
 愛らしく小柄なマジシャンの満足そうな顔と、空っぽの皿。
 無論、騎士の分である朝食は手つかずで残されている。

 よっぽど憐れな姿だったのか、騎士はブラックスミスに自分の朝食を進め、
 ブラックスミスは少し、いや大半を平らげてしまった。
 それでも満足しない己の胃袋と、朝食をほとんど食べれなかった騎士のため、
 ブラックスミスは魚でも釣るかーと思い立ったのだ。






 ふと、釣り竿が強く引っ張られる。
「きたかっ!きたのかっ!きたあああああ!」
 渾身の力をふりしぼってひきあげた先に、濡れそぼった血まみれのアサシン。

 ブラックスミスはあわてて引き上げる。
 弱々しいが、とても頼りないが、でも確かに生きている。
 胸にしっかり抱く子供は、もはや事切れていたが。


 意識のない水気を含んだふたつの体はとても重く、
 それでもブラックスミスは必死に抱え上げた。
 ギルドチャットで叫ぶ。

「マ、マガレッ! アサシン釣った! 怪我してるからっ!!」

 上着の胸ポケットでふるえるのは、了解の合図。
 バイブレーション機能のついた冒険者カード。
 落ち着いて大丈夫よと優しい振動は、パニックで強張っていた肩を優しくさするように。
 ブラックスミスは、ひとつ深呼吸をする。


 ブラックスミスは、ハワード=アルトアイゼンは、
 つんのめりそうな足取りで、しかし一歩一歩慎重に歩き出す。

 ギルドチャットを聞きつけ、
 幼なじみで頼りになる騎士が、もうすぐそこまで来ているはずだ。



inserted by FC2 system