「やあ、来てくれたのか。大丈夫かい、今大変な時期だろう?」 「そんなことはどうでもいい。……ハワードの様子は?」 待合室に戻ってきた夫は男に気付き、片手をあげて挨拶をする。 私の向かいの椅子に腰をおろし、男と私を見遣り、 「ついさっき目が覚めたよ。耳はやっぱり駄目みたいだ」そう、告げた。 男は立ち上がり、深々と頭を下げる。 「……本当にすまない。詫びてどうなるわけでもないと分かっているが……」 「これは事故だ。誰が悪いわけでも……まあ、運が悪かった、というべきか」 「しかし……」 「ハワードが言ってたよ。セイレンが僕を助けてくれたんだ、って」 さすが君の息子だ、と夫は微笑んだ。 「しかし、耳が聞こえないというのは、鍛冶師として致命的ではないのか」 「うん、そうだね」 あっさりと頷く夫に、男は目を見張る。 続いて男は私を見遣り、そして私が涙ひとつ流さず平然としている様に眉を顰める。 「おまえたち、……この状況が分かっているのか」 「え、うん」 「えぇ、それより座ってくれないかしら?」 図体と態度だけは昔からでかいんだから鬱陶しいわよ、私の言葉に男は思わず閉口した。 今の男が住む世界では決して聞くことのない暴言だろう。 「………おまえたちは、本当変わってないな」 詰めていた息をふっと吐き出すように身体の力を抜き、椅子に座りなおすと、 男はようやっと今日初めての笑みを、懐かしむような苦笑をこぼした。 | ||