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 かつて、私たちは同じパーティの仲間だった。

 リーダーで騎士であった男とブラックスミスの夫とウィザードの私、
 他にプリーストとハンターがいて、あとは臨時で何人か出たり入ったり。

 あの時代はまだ女冒険者が少なくて、
 パーティの中で私以外全員男だったから誰も気付かなくて、女だったから私だけが気付いて。
 つまりそれは、この男が夫に対して強すぎる執着を抱いているということに。

 気付いてしまったから、私が男から夫を奪ったのだ。
 男が夫に対する感情に気付く前に。過ちを気付かせるために。
 だって男も夫も私の大切な仲間なのだから。
 誰も幸せになれない未来ならば、私は変えなければならない。


 ……こうやって過去を振り返るといつも言い訳ばかり、ね。

 ハワードの母親である赤毛の女は、小さく自嘲を浮かべた。
 セイレンの父親である男の訝しげな視線に、憐みすら感じる。






 仲間内でささやかな結婚式を挙げた夫と私。
 王族とも縁のある貴族の娘と、大聖堂で荘厳な式を挙げた男。
 冒険者をやめ、それぞれに家庭を持ち、道は違えたはずなのに。

 私が選んだ道は正しかったはずなのに、
 今でもこの男は変わらない目で夫を見続け、夫の剣しか傍らに置かないのだ。


 この男は何も変わってない。
 何も気付かないまま己の道をひとり孤独に歩み続けている。
 私たちと違う道を、ひとり。



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