ネタバレ上等。俺的まとめ。 一,ローグは、ウルフに育てられた狼少年である。 よって、人間嫌い。ってか、人に慣れてない? 一,ローグは、虐待された経験がある。 許せないが、あのローグの幼少時ならムラムラっとクる気持ちは分からなくもない。 一,ローグは、そういうヤツらに復讐をしているらしい? 今九人目。あと一人いるらしい。 一,ローグは、殺人犯として追われる身になる。 俺はローグと共にいられるなら、何もいらないと思った。 ローグはニンジンが嫌いだった。 バナナもオイシイ魚もパンも食用キノコも嫌いだった。 その他にも挙げればキリがない程だが、そもそも食べること自体が苦手なのだ。 小食というか、食べたくても食べれなかった時期があったせいか、身体がそれに順応し受け付けないのだと思う。 ローグに拾われ俺的同棲生活が始まった夜、ローグが出した食事は、化け物のエサだった。 皿にボトリと横たわるバケエサにコレは俺に対する嫌がらせか挑戦状かと唸ったが、口にくわえ窓の外をぼんやり眺めながら囓る姿を見て思わずガックリと肩を落とした。 肉はナマからウェルダンまで幅広く好物で、あと野菜類ではイチゴ。……ウルフの影響受けまくりだ。 それから食事は俺の担当になった。 最初俺が作った料理に全く手を付けなかったが、無理矢理口を開けさせあーんと食べさせたり、食べるまで一時間でも二時間でも頑として椅子に座らせたりした結果、嫌々ながらも自ら料理に手を付けるまでになった。 コレもひとえに俺の努力の賜物ってヤツだ。 決して、ローグの嫌がる顔を楽しんでいたワケデハナイ。 苦心して料理を喉に通すローグの姿を思い浮かべ、クスリと笑いがこぼれる。 目の前には、手の付けられることのない朝食、ハチ蜜を多めに入れたハーブハチ蜜茶。 それは俺の料理から生まれた、バケエサと肉とイチゴ以外の初めての好物。 この湯気が消えたら出て行こう次の湯気が消えたら出て行こうと眺めているうちに、いつのまにか湯気どころかすっかり冷え切っていた。 椅子から立ち上がり、その拍子に甘い疼きに痛んだ腰をさすり、部屋をぐるりと見回して、そして俺は、ローグの家を出て行く。 一,ローグは、いなくなった。 俺の前から。何も言わずに……。 ハイプリーストと別れた日、俺がハイプリーストを抱いた夜。 俺を受け入れ、苦痛と快感に朦朧とする意識の中で、ハイプリーストは名前を呼んでと言った。 何故そんなことを願うのか訝しく思ったけれども、セリンと呼んでやると苦痛に歪んでいたハイプリーストの顔が少しほころび、彼の中がきゅっと絞めつける。 もっと呼んでと乞われるままに、俺は何度もハイプリーストの名前を呼び続けた。とても不思議だった。 夜が明け空が白み始めるまで、俺は隣で眠るその顔を飽くことなく見ていた。 出て行くことは心に決めていたが、身体はなかなか従ってくれなかった。 あともう少しあともう少しだけと動けないでいる俺に、その輝きを強め始めた太陽が時間切れを知らせてくる。 穏やかな顔で眠るハイプリーストの耳元に、小さく名前を呼んでみた。 すると、ふわりとハイプリーストが微笑み、じんわりとあたたかいモノが奥底から沸き上がり俺の身体の隅々まで満たす。 その正体が一体何なのか分からなかったが、知りたいとは思わなかった。 俺は家を出る。気分は上々。 ハイプリーストが幸せであればいいと、柄になくちょっと思った自分が可笑しかった。 「あああ、セリン先輩ーッ」「よぉ後輩ー、臨時かー」 「西兄貴村ですー!」「そうか、超にヨロシクなー」 「遭ったらハァハァしてきまッス」「おう、ナニでかそうだしなぁー」 一線越えちゃダメですよーと話す前髪が短く形の良い額を晒すアコライトとハイプリースト。 その目が、臨時広場をおどおどと歩くマジシャンの少女を捉えた。 「あれ、マジ子だ」 「……先輩、マジ子って……」 ハイプリーストが手をふると、少女はあっと声をあげ頭をぺこりと下げた。 「こんにちは、スタポ狩ってたよね?」「あの時はありがとうございました!」 「臨探してるの?」「は、はい、でもなかなか入る勇気がなくて……」 「レベルいくつ?」「えと、50になりました」 あの頃より少し装備も整い身に纏う魔力を増した少女は、格段に美しくなっていた。 「僕のとこ、おいでよ!」「えええ!?」 「西兄貴村に行くんだ。レベルも合うし」「臨初めてで装備あまりなくて……」 「大丈夫! みんないるから!」「あの、でも……足引っ張る、かも……」 自信無さそうに俯く少女に、大丈夫だよ行っておいでとハイプリーストが微笑み、アコライトは少女にまっすぐと手を差しのべる。 「ほら、行こう! みんなを紹介するよ!」 「あ、……は、はい、よろしくお願いします!」 その手に、マジシャンは嬉しそうに微笑んで小さな手をのせた。 それじゃいってきますとアコライトがふり返った視線の先、ハイプリーストの姿はもうなかった。 中年と呼ばれる頃合いの男が、肘掛け椅子に座り本を読んでいた。 ロウソクが時折ジジジと芯を焦がす音と、男がページをめくる音が際立って聞こえるほどの静かな夜。 ローグは音もなく男の前に立った。 「そろそろ来ると思っていたよ」 男はパタンと本を閉じるとサイドテーブルに静かに置いた。男の優しそうな瞳がローグの冷たい視線をやんわりと受け止め、 「大きくなったね。しかも男前だ」 小さく微笑んだ。娘も昨年結婚して子供が生まれたよと男は穏やかに話す。 ローグは知っていた。 幼子を助けるためウルフを殺してしまった冒険者は、同じ齢位の幼子の父親であったこと。だからこそ余計に必死であったことも。 そもそも誰だってウルフにくわえられた人間の子供を見れば勘違いするし、例えウルフと幼子の関係に気付いたとしても、人の手に戻すため場合によってはウルフを処分しざるおえないことも。 それがきっかけで、男は冒険者を辞めたことも、小さな庭の片隅、日々手入れされ可憐に咲く花々の下にウルフの亡骸が眠ることも、ローグは知っていた。 「私はずっと考えていたよ。君があのままウルフの元で育った方が良かったのか、君と……君を拾い守ったウルフには悪いが、これでよかったのか、と」 ただでさえ君を苦しませ苦労させたのにさらに事態が悪化してしまったんだねと、男はつらそうに眉をひそめる。 「騎士団長のあの男が君を助けようと手を尽くしている。それまで身を潜め堪えてくれ」 ローグの左手に握られる鈍い銀色の刃を目の前に、君に苦労をかけてすまないな〜ゴホゴホと軽く戯けて見せ、そして目を閉じた。 男は待っていた。 苦痛も死への恐怖も与えることなく、その刃が真っ直ぐに心臓を貫く瞬間を。 ローグが今までに殺めてきた数多の命と同じように。 「……お前の、答えは、……どっちなんだ……?」 思いもよらないローグの問いに、男は目を見開き息を呑む。 「…………そう、だな……。まだ、分からない。私のせいで、君は苦しい思いをたくさんしただろうし、……人も殺してしまった。もし、あのままウルフに育てられていたら、君はどうなっていたのか、幸せになったのだろうか。そうかもしれないしそうならなかったもしれない」 ローグに聞かせると言うより自問自答に近い男の独白が、ただ……と言葉を続ける。 「私は、君を育てたいと思った。しかし、私は未熟で、冒険者をやめて生活はさらに貧しくなり、妻と娘と妻が身ごもっていたもうひとりの命を守ることで精一杯だった。……私は君を騎士団に託すことにした。君を守ると、あの騎士団長が引き受けてくれたよ。腕の中でぐずつく君を、私と彼で必死にあやしたりしたものだ」 その頃のことを思い出しているのか、男の目はローグを通り越しその先の闇を見ていた。 「知らないと思うが、君の名前は、私と彼が決めたんだよ」 「…………名前、……?」 「え、もしかして聞いてない? 彼は君に言わなかったのかい?!」 「……」 「信じられない!……あれから何年経つと思って居るんだ。ひどいな信じられない……奥手とか口べたにも限度があるよ!」 ひとしきり憤慨した後、気が済んだのか男はまっすぐにローグを見て、告げた。 「君の名前は、ルビィって言うんだ。赤い髪や瞳がまるでルビーのようにキレイだったからね。男の子につける名前じゃないと妻にからかわれてしまったが、俺は本当に良い名前だと思ったよ」 君が気に入ってくれると良いんだがと少し心配そうな声音で続けた後、最後に言えて良かったと男は微笑んだ。 ローグは、路地裏に積まれた廃材の隙間で息を潜めていた。 追っ手の怒声と足音が響き、血の臭いを嗅ぎつけた犬の狂ったような吠え声が聞こえる。 血が流れる脇腹をきつく押さえ、ローグはひたすらに気配を消す。 もう短剣を握りたくなかったし誰も傷つけたくなかったローグは、それでも生きることを諦めず、ただできる限りまで逃げることを選んだ。 何時間経ったのだろうか、辺りは静まり返っていた。 蹲っていたローグはのろのろと顔をあげ、ほっと安堵の息を吐き出す。 じくじくと痛む脇腹を押さえたまま、もう片方の手でポケットをさぐり、小さく折りたたまれた紙片を取り出した。 それは、いつかハイプリーストがローグに書き置きしていったメモ。 わずかばかりの星明かりの下、もう何回も何十回も目を通してきたハイプリーストの文字を、目でなぞる。 『プロに買い出しにいってくる。イイコにして待ってろよ。』 あの日、目が覚めるとハイプリーストの姿はなく、文字の書かれた紙が一枚枕元に置いてあった。 文字が読めないローグは何が書いてあるか分からなかったが、それでもじっと眺めていた。 ハイプリーストが自分に宛てて残した言葉を読めないのが、少し残念に思えた。 寒さと緊張で眠れない夜も、追っ手につけられた傷に意識が朦朧とするときも、ローグは何度も何度も目を通す。 「セリン、かなりまいってるよ〜」本人全く気付いてないけれどね〜。 「…………そうか」 「糸の切れた風船みたい〜」前より一段とふわふわしてるよ〜。 「……」 俺は次の相手を求めて界隈を歩く。 ひっきりなしに場所を変え相手を変えモノを変え絶え間なく銜え続け、ケツの穴は緩みっぱなしだった。 毎度飲まされる苦い精液ばかりでは出るモノもなく、つっこまれる器官としては好都合だった。 指で解す無駄な時間はいらない。ぶっといナニでもブリガンでも束ねた古木の枝でも丸太でも、痛ければ痛いほど苦しければ苦しいほどイイ。 何も考えられないほど狂ったようによがり、何の夢も見ないほど深い闇に落ちることができるならば、何でも良かった。 (俺にも、そんなシュミがあったなんてなー) 心も身体もぎしぎしと悲鳴をあげていた。しかしハイプリーストは気付かない。 相変わらずの飄々とした顔で次の相手を探す。「やりたいのか?」「まあね」「俺が可愛がってやるよ」男の腕がハイプリーストの肩に周り、「アンタのナニぶっとい?」「太いのに突っ込まれのが好みかい?」「まあね」「知り合い呼んで二輪刺しする?」「おーいいねー」 「……この馬鹿者、いい加減にしろ」 背後から万力の力で肩を掴まれ、俺の肩甲骨がギシギシと悲鳴をあげる。 俺の身体は見ず知らずの男から、無表情に見下ろしてくるファウ先輩の元へ移った。 「こいつは私のツレだ。……失礼する」 ポタに強い力で押し込まれ、俺はまばゆい光りの渦に包まれた。 ファウ先輩の怒りが強ければ強いほど、その顔から一切の表情が消える。 今の先輩はおっかないほど酷く怒っていた。 「ん……っふう……」 乱れる呼吸に胸元を上下させ、休む間もなくひたすらに与え続けられる快楽をやり過ごす。 ファウ先輩に掻き回され、俺の中はトロトロに溶きほぐされていた。 出し入れされる度に、グチュグチュと何度も中で出された精液が流れ落ち内股を伝う。 俺の身体を知り尽くしているファウ先輩は、俺の弱いトコロを容赦なく弄り追い詰めていく。 「相変わらず、感度が良いな」 「……っあ、……ん」 「こんな淫乱な身体でよく『赤髪』が抱けたものだ」 身体がびくりと強張る。 ローグが俺の元を去って以来、様々な噂を耳にしてきた。 ローグは人に抱かれると、決まってその相手の命を奪うことや、殺した男の性器を食っているとまことしやかに囁かれていることも。 「……ッ、……ヤツ、は……」 「まだ捕まっていない。しかし時間の問題だろう」 突然腰の動きが止まった。 俺の中で脈打つ先輩の欲が生々しく内壁を通し伝わってくる。 激しく鼓動する心臓の音と、どれだけ吸っても吐いても肺に酸素が行き渡らずぼんやりと霞む意識の中、右手をのろのろと目の前に持ち上げた。 ローグを掴んだ右手は、その熱を手放した今でも確かにあの時の感触を覚えている。 「今回は見逃した。……だが、今後お前が『赤髪』を選ぶのなら、私は容赦しない」 これは脅しではない。 言葉通り、俺がローグを求めるならばファウ先輩は俺をあっさりと切り捨てるだろう。 人が時にどこまでも冷酷になれるのは、揺るぎない信念があるからだ。守りたいものがあるからだ。 先輩の冴え冴えとした銀色の瞳の奥に静かに燃える赤い炎は、お前は何をぐずぐずしているのだと、何故ローグの跡を追わないのかと責め立てているようだった。 何故ローグは俺だけを殺さなかったのだろうか。 何度、俺を殺してくれればよかったのにと思ったことだろうか。 ローグの腕が俺の首に回されたときの体温を思い出す。 ローグは俺を求めてくれていたのだろうか。 自惚れても良いのだろうか。 先輩の動きが再開され、俺はその腕の中でよがる。右手をぎゅっと握りしめて。 今日はイフリ〜ト狩り〜とポタに蹴り入れられ、俺はベインスの町に降り立った。 ローグはまだ見つからない。 賞金首をかけられ命を狙われるローグを一刻も早く見つけたいと焦る俺に、世話にも恩にもなっていない先輩は相変わらずの調子でボス狩りに連れ回す。 (くそー、どこに隠れてやがるッ……!) 果てのある狭い世界と思っていたが、いざ一人の人間を捜すとなるととてつもなく広かった。 (見つけたらタダじゃおかねー! ぜってーなかせてヤる!) あらゆる体勢をさせ、あらゆる道具を用い、あらゆるプレイを強要されたローグのあられもない姿を妄想していると、俺は思わず興奮し、勢い余って鈍器を振り下ろす。 そこに運悪く横を通ったスタポがクリティカルヒットの5桁ダメージで粉砕。そしてカードがポロリと。 思わず我に返り手を伸ばすが、どこから沸いたのか別のスタポがぱくりと飲み込んでしまった。 あわてて殴るけれども、現れるはずのカードがない。どこにもない。 (ま、またこのパターン……っ?!) 人目のないところを移動してたはずが、近くにトール火山ダンジョンがあるためか思った以上に冒険者の姿が目についた。 大抵の冒険者はテレポートやハエの羽を用い移動していくのだが、裏を返せば彼らがどこに着地するか分からず鉢合わせる危険性が高い。 そしてトール火山で狩りをするレベルの冒険者を相手に、逃げ切れる可能性は限りなく低い。 俺はフードを目深に被ると方向を変え足早に歩き出そうとする。 その先に一人のハイプリーストが歩いてくる。 ギクリと身体が固まった。あわてて近くにあった岩の陰に身を潜める。 セリンだった。 あまりその姿を見ることは出来なかったが、久々に垣間見たハイプリーストは少しやつれ、それでもどこかの町でみた天使の石像のようにキレイで、小難しい顔をしていた。 単調な足音が近づいてくる。心臓が痛いほど激しく動く。 サクッサクッと砂地を踏む足音は、ローグが身を潜める岩の前を通り、そして通り過ぎる。 ローグは息を潜めその音が遠く聞こえなくなるのを待った。 座り込み膝を抱えるローグの足下にいつのまにか現れた一体のスタポ。 目の前でぽくぽくと音を立て跳ねていた丸い身体が、突然ぼこっ!っという音と共に砕け散った。 「ひぃ!」 あまりの事に思わずローグは驚愕の悲鳴を抑えきれなかった。 「んじゃ〜さっさと終わらせちゃおっか〜」 トール火山前の洞窟に集まる冒険者達。レア装備を身に纏い、鍛えられた四肢と自信に漲る瞳。 そんな強靱な冒険者達の間に響く、間延びしたハイプリーストの声。 「……おい、いつものはどうしたんだ?」 「いつもの〜?」 「……金髪頭のハイプリ」 「あ〜セリンのこと〜?」 最近よく見かけるこのロードナイトの男は、セリンが目当てだということは知っていた。 「今日は〜セリンこないよ〜」 そうか…と肩を落とす男に、これからもね〜とハイプリーストは喉の奥で呟く。 (……えっ?!) 俺はふり返る。 少し後方、俺が今通り過ぎた岩の陰に、フードを被った人影が逃げ腰で座り込み、その足下にスタポの残骸が散らばっていた。そして一枚のカード。 呆然と足下の残骸を見ていたその人影の、フードの間からこぼれるのは赤い赤い髪。 俺は目を見張り立ち竦む。 フードの人影はハッと我に返ったようにこちらを仰ぎ見る。 その瞳は、俺が知っている俺が探していた俺が求めていた赤色。 ローグだった。間違いなくローグだった。 弾かれたように逃げ出そうとするローグに、俺の足は直ぐさま反応し駆け出す。 (……逃がすもんかっ!) もう二度と、その手を離さない。 どこからともなく現れたスタポが、落ちていたカードをぱくりと食べた。 乾いた風が吹き、ローグとハイプリーストが残した足跡は砂地に滲む。 それだけだった。 「ただ、それだけだった」 2009.3.20 |