それは、俺が人生で初の記憶喪失になった日。 みなさんご存知だろうか、スタポカードなるモノを。 そうつまり、石を拾い!石を投げ!頭がもげる!ことのできるM級のレア。 何故わざわざ石を拾い!石を投げ!頭がもげる!のにスタポカード挿しのアクセサリーが必要なのか小一時間ほど問いつめてやりたいが。 誰に?ンなの誰だっていいサ。いや待てよ誰にだろう?うーむ。 (……でもサ、気にしちゃ負けだと思うンだ) 俺は足下に落ちている石を、力なく蹴った。 世話にも恩にもなっていない先輩ハイプリーストに、手ェ足りね〜からきて〜とポタに蹴り入れられ、着いた先がラヘルの町。 粉ヤるからD前五分後な〜と手をヒラヒラさせ、先輩は再び人集めにいずこへ。 (……ココで断っておきますが薬の密売とかじゃアリマセン。氷の粉を撒いたら出てくる何とかってボスですハイ) 前述したように世話になったとか指導を受けたとか尊敬してるとかそんなのはコレっぽっちも無く、いつも面倒事ばかり押しつけてくる先輩に、俺は悪態をつきながらも手早く準備を済ませ町を出る。 (なんだかんだ言って憎めないんだよなぁ……) 荒廃とした土地を北へ北へと。道中、マジシャンがスタポ相手に舌足らずな詠唱で魔法を発動させていた。 集中を妨げないよう頃合いを見てから一通り支援をかけてやると、びっくりした顔でこちらをふり向き、顔を赤らめながらありがとうございます!と勢いよく頭をさげてくる。 まだあどけなさを残す少女の顔立ち。魔力がほとんど感じない杖に、擦り切れた装備。 「がんばってね」 ゼニもない装備もないでも未来があるそんな小さな冒険者にエールを送る。 いつか立派な冒険者へとなるだろう……否、あと数年経てばいいオンナになるだろう少女に手を振り歩き出す。 (ぐはー、モッタイネー!) ここで壁とか手伝いとか恩を売っておけば、ゆくゆくはムフフな展開になったかもしれないものを!「……先生、最近からだが変なんです」「ん、マジ子どうした?」恥じらいながらフンドシを指で弄り「先生といると……あの……ムズムズして、」「……何処がムズムズするんだい?マジ子言ってみなさい」「あの、その……」マジ子は上目遣いにフンドシを持ち上げ、 (うおおおおおお、先輩の馬鹿っっっ!) 勢い余って振り下ろした鈍器が、運悪く横を通ったスタポに命中。粉砕。そしてカードがポロリ。 思わず我に返り手を伸ばすが、どこから沸いたのか別のスタポがぱくりと飲み込んでしまった。 あわてて殴るけれども、現れるはずのカードがない。どこにもない。 (な、なんで……っ?!) 「えええええええっ!」 思わずふり返るとマジ子が呆然と座り込んでいる。 目の前の、スタポの残骸の間に、一枚のカード。 腰が抜けたのか座り込んだまま、怖々と手を伸ばしカードを大切そうに拾い上げた。 この世の中にカミサマなるモノがいるとしたら、頑張っている少女にご褒美をあげたのだろう。 俺にとってはラッキー程度だが、彼女にとって数Mはとてつもない金額。 売ったお金で新しい装備が買えるだろうし新しい魔法を覚える授業料になるだろう。 必要なトコロに必要なモノを。そりゃ分かるよ分かってるよ分かるサ。 (分かるけれども、酷いよカミサマ……!) 力なく蹴った小さな石は、大きめの岩にコツンと当たった衝撃でありえないほどの高速回転が加えられ、ペコペコの卵に4桁のダメージを出してクリティカルヒットした。 無論、卵は木っ端微塵。 それを目撃したペコペコが怒りの雄叫びをあげると、どこからともなく大量のペコペコが土煙を上げ突進してくる。 「マ、マジっ……?!」 ペコペコに取り囲まれ、そのくちばしで、俺の繊細で大切な場所を一斉につつき始めた。分かるだろ?そう、頭髪だ。 (べ、別の場所思い浮かべたヤツ、ソコで一時間正座なっ!) 愛用のMBクリップでは火属性のペコペコにたいした威力も発揮できず、髪の毛を服をアソコをつつくペコペコに闇雲に鈍器を振り回し、石につまずきバランスを崩し、岩に思いっきり頭をぶつけ、そして俺は意識を手放した。 まだ怒りが収まらないのか何度かペコペコに踏まれ、くるくると星を回すのはLv98の殴りハイプリースト。 そこを通りかかった一人のローグ。 白い法衣にペコペコの足跡を大量につけたボロボロのハイプリーストに顔を引きつらせ、しばらく思案したがハイプリーストの腕をむんずと掴むと引きずり歩き出す。 必要なトコロに必要なモノを。適材適所。 そう、カミサマは、彼にも必要なモノをちゃんと用意していたのだ。 ローグは、この世の中でプリーストというモノが大嫌いだった。あと騎士団の奴らも大嫌いだ。 物心ついた時から一人だった彼は、生き延びるために盗みやスリといった悪行を繰り返すしかなく、大人に捕まっては殴られ蹴られ、騎士団に連れられては説教され、修道院に連れられては逃げ出した。 大人達の優しそうな表情とは裏腹の、憐れむような蔑むような目が大嫌いだった。 ローグが普段使っているベッドを占拠しているのは、先程拾ったハイプリースト。 そのおキレイな純真無垢の安らかな顔は、どこかの町でみた天使の石像のように清らかで。ローグはむかついてハイプリーストの頬をぎゅううと捻る。 「ん……、痛っ……」 「起きろよ、ハニー」 耳元でそう囁いてやると、思わず飛び起きるハイプリースト。衝撃で痛みが走ったのか頭を抑え、かすかに唸りながら辺りを見回し、そして青く透き通った目がローグを捕らえた。 「イテテ、アンタ誰……?」「心のコイビト」 「ンでもって俺は誰?」「俺の新たな金ヅル」 「……冗談?」「マジ」 窓の外には、ローグが洗濯したハイプリーストの白い法衣が、穏やかな陽光のもと、やわらかな風にはためいている。 「ちょっとタンマ、冗談抜きでマジで俺ダレ……?」「んなの知るかよ」 「アンタが俺の恋人?」「……んなコトより、冒険者カード見れば?」 「そうだった、カードってどこにいれてたっけ?」「さぁ」 ごそごそとポケットをさぐるハイプリーストから目をそらし、ローグは深く深くため息をついた。 こんなことならとっとと身ぐるみ剥がして捨ててくればよかったとぼやく。 「……とりあえず目ェ覚めたンなら、さっさと出て行ってくれよな」 「つめてー! お前、俺の恋人なんだろ?!」 「スマン、人違いだ」 もう半乾きでいいやと法衣を取りに行こうと立ち上がるローグのジャケットの裾が引っ張られ。眉間にしわを寄せふり返る先に、ハイプリーストの必死な顔。 その表情があまりに不安そうで泣きそうで。ローグは苦笑して、柔らかな金色の髪をぽんぽんと軽く叩いた。 「……分かったよ、記憶が戻るまでココにいていいぜ」 「え、あ、うん、……ごめん」 ハイプリーストはやわらかくやわらかく微笑み「……サンキュー」と礼を言い、ローグは戸惑いながらぶっきらぼうに「……別に」と目を逸らす。それが三日前。 気付くと、俺の目の前にいたのは鮮やかな赤い髪をしたローグ。 彼を見た瞬間何かが引っかかったけれども、頭痛と耳鳴りが酷くて思い出せない。 傍を離れようとした彼に思わずすがった手が振り払われることはなく、困った顔で幼子にするように優しくあやされ背筋にぞくりとふるえが走る。 そして、恋人という言葉が、すとんと俺の心に落ちた。 (キオクソーシツってホントあるンだなぁ……) 商売道具である短剣を手入れするローグをぼんやりと眺める。 夕飯を終え個々にくつろぐ時間帯。 しっかりちゃっかりココでの生活にすっかり馴染んだ俺は、ベットとして使っているソファに寝転がりながらローグに声を掛けた。 「なぁ……」「んー」生返事。 「俺ら恋人だよな?」「イイエ」即答。 「んでサ、どっちがヤる方なん?」「聞いちゃいねーし」呆れ声。 俺はソファから身体を起こし、立ち上がる。ローグは手入れしていた短剣から目を上げ、俺に警戒したまなざしを向ける。俺とローグの間は約五歩。 「なぁなぁ、俺たまってンだけれどー」 「……ソレ、聖職者が言うコトか」 一歩足を進める。ローグへと向かって。 「俺タチもネコも両方イけるクチ。アンタは?」 「……冗談やめろよ。ヌきたければ自分で処理しろ」 また一歩。牽制するような険しい眼差しを向けられ。 「つれないなぁ、恋人なのに……」 「だから、違うって」 そしてさらに一歩。ゆっくりと確実に俺とローグの距離が縮まる。 「気持ちいいコト、シよ」 「お前……本当に聖職者か……」 短剣を掴む左手に力が込められるのが分かる。俺が足を踏み出すと同時、ローグは後方に逃げようと身をひるがえし、しかし強い力で右腕を捕まれ引き戻され体勢を崩す。 (……捕まえた) それでも繰り出してくる短剣を軽々と避け、ローグを背後から床に押さえつけた。 背中に膝をつき、首根を右手で力を込め押さえる。ローグは苦しそうに顔を捻り、眉根を寄せ睨み上げる。 「……っ、離せよ!」 もう無理と悪戯っぽく笑って、ローグに覆い被さると足を絡ませ抵抗を封じ、下半身へと手を伸ばす。布地の上からソコを擦ると、ローグは必死に抵抗を試みる。が、無論阻まれた。 「固くなってる、……ココは触って欲しいってねだってるみたいネ」 快楽と羞恥に顔を埋め唇を噛み耐えるローグの耳元に煽るように囁き、耳朶を噛み、舌を入れるとねっとりと舐める。 ジッパーを下げ直に触ると、ローグの身体がビクリとはねた。 「やっ……やめろって……」 「大丈夫、俺上手いって」 「お、まえは……バカかっ!」 憎まれ口に、強く握り込み爪を立て反撃すると、喉の奥微かな悲痛な喘ぎが耳に心地よく届く。 もっと喘がせたいもっと啼かせたいもっと乱れさせたいと嗜虐心が後から後から止め処もなく。 ハイプリーストの腕の中でただどうすることもできず、床に押さえつけられ、逃げることも抵抗も封じられ、ただ与えられる快楽にしなやかな四肢を震わせ強張らせ、唇を噛みしめ声を殺し、しかしこちらがほんのわずかでも隙を見せれば喉元を噛みつかんと狙う姿はまるで赤い獣のように。 本能でそれを感じ取っているのか、ローグより力も体格も勝るハイプリーストはそれでも手をゆるめず徹底的に抵抗を封じ、その指でその舌でそのナニで快楽を与えローグを追い詰めていく。 苦しさと羞恥にローグの目から涙が零れ、呼吸が追いつかず抑える悲鳴に喉をつまらせ喘ぐ息づかいがさらにハイプリーストを煽る。 衣服を全てはぎ取られてもなお続く力ない抵抗を、圧倒的な力でねじ伏せる。 膝を折らせ腰を高く上げさせ、背後から深奥まで楔を打ち込む。 胸の突起を執拗に弄る指から逃れようと腰を引くと、自ら繋がりを深くする結果となり痛みと圧迫感に呻く。 わずかな逃げ道も与えられていないローグに為す術はなく。 ハイプリーストが腰を動かすと結合部分からは白濁とした精液と裂けた傷口から流れる鮮血がクチュクチュと卑猥な音をたてて混ざり合い、獣のような二つの荒い息づかいが部屋に響いていた。 「も、もっ……くるしっ……」 はちきれそうなソレを根本で握ると、腕の中でローグが痛みと苦しさに悲鳴をあげた。 濡れた深い深い紅い目を細め視線をよこしてくる姿に、ゾクリと肌が泡立つ。 「……っ!! や……っ」 「お願い……一緒にっ」 もっと奥までもっと限界までえぐるように激しく腰を打ち付ける。ハイプリーストを形作る全てのものが、ローグを求めていた。 俺の腕の中に、囚われた赤い獣。 ねぇもっと乱れてもっと啼いてもっと喘いでもっと快楽溺れてもっともっと。 「……っ!」 「やああっ……!!」 ローグの中で大きく脈打ち最奥へと解き放った。同時に、せき止めていた指を促すようにきつく根本から擦ると、ローグは身体を大きくビクリとのけぞらせ、そして意識を手放した。 「お前……ホントは記憶戻ってるだろ……」さぁ、何のコトやら。 「出て行くって約束だよな」えーほら、こーゆう時の常套句があるだろ? えらいサンがよく言ってンじゃんとヒントを出しても首をかしげるローグの耳元に、答えを囁いてやる。 途端に飛んできた力ない拳を、俺は難なく受け止め口づけを落とす。 「……もう、出て行け」 かすれた声。頭をぽそんと枕に埋め、ふてくされるローグが可愛くて、笑みがこぼれる。 「でも俺、アンタを手放す気ィないしー」 覚悟しとけよと、俺はローグの赤い髪をぽんぽんと優しく叩いた。 「記憶にございません」 2009.3.16 |