何故こんなことになってしまったのだろう。
 いつ道を踏み誤ったのか。

 そう、あれは、『秘密の羽』からの調査依頼。
 レッケンベルという大企業を隠れ蓑に生体実験が行われているという。
 転生を経て全員がオーラを身に纏うパーティとなっていた俺たちには簡単な任務であった、ハズだった。
 追いつめられ傷を負い薄れる意識の中、誰かの悲痛な叫びが、「裏切り者」と罵る声が、ぼやけた記憶の中に鮮明に焼き付いている。
 誰が裏切ったのか、自分が裏切ったのか、そんなことはもうどうでもいい。



 それでも俺たちはパーティであり続けた。
 生きているのか死んでいるのか、己の存在は曖昧で。
 髪の毛から爪先まで姿そっくりのコピーは無表情に徘徊し冒険者に牙をむける。
 時にその牙はコピーにも向けられ。壊されても殺されても永遠に繰り返し作成される、もうそれは感情を持たない殺戮マシーン。

 それでも俺たちは生き続けた。
 コピーの記録は止め処もなく送られ、冒険者を傷つけ殺し傷つけられ殺されエンドレス。
 絶えることのない『生』。
 肉を切り裂く手応え、恐怖にひきつった表情、憎悪に満ちた目、傷つけられる傷み。
 倒れる瞬間の己を見下ろす冒険者達の狂喜の目。


 それでも俺たちは、人間であり続けた。人間であり続けなければならなかった。




 ある日、セイレン=ウィンザーが壊れた。
 セイレンは綺麗すぎたのだ優しすぎたのだ、だからこんな場所で生きていける人間ではなかったのだ。
 リーダーであるという責任感だけが彼を支え続けていたのかもしれない。

 しかし突然、セイレンは人間であることをやめてしまった。
 深い悲しみが彼を変えてしまった。
 仕方のないことだった本当に仕方のないことだった。
 セイレン=ウィンザーは狂ってしまった。


 マーガレッタは静かにとても静かに涙を零す。
 セシルもカトリーヌも支え合うように寄り添う。ふるえる手は互いの手を握りしがみつくように。

 泣かないでどうか悲しまないで。
 もう元には戻れないのなら、俺がセイレンの傍にいくから。
 俺がセイレンを、仲間を守るから。
 もうこれ以上誰も悲しまないように誰も傷つかないように俺が俺がオレガ……。

 研ぎ澄まされる感覚。
 あらゆる雑音が消え意識は静かな湖面のように。
 泣くのを堪えようと顔を歪ませるハワードの姿がさざ波を立てる。



 そして全てが闇に落ちる瞬間、俺は人間であることをやめた。





 その後、古木の枝からコピーが召喚されるようになる。
 研究所で作られたコピーは初めて触れる外の世界に身を震わせながら、視界に入る全ての者を切り裂く。
 その視界を通して、男は外の世界を眺めていた。

 あたたかな日差し、そよ風に揺れる木々の葉、色鮮やかな花、鳥のさえずり。

 突然の相容れぬ存在に、知らぬ者同士が協力し刃を向けてくる。
 倒れる瞬間、コピーは、男は、かすかにその口に笑みを浮かべる。

 世界は変わらず美しかった。


「変化はいつも突然やってくる」 2008.05.22
 
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