何処行ったんだろう。昨日に任務から帰ってるはずなのに自室に戻ってこない。朝からこんなに捜してるのに食堂にも談話室にも医療室にも中庭にもどこにも居ない見つからない。何処行ったんだよ全く帰ってきてんなら顔ぐらい見せろよ。トモダチだろ? 親友だろ? アンタがそう言ったんだろ? それならオレん所に帰ってきてよ。……ちょっとだけちょっとだけ寂しかったんだホントほんのちょっとだけだけれどね、アンタがいない間。

 ……どうせまた女の人のところにでも行ってるんだろうけれど。

 黒髪の飄々とした後ろ姿求めてあてどもなく歩き回る。折角の休日無駄にしてまでオレ何してんだろう。いつか帰ってくるのに任務から無事に帰ってきてんだから待ってればいつか帰ってくるのに。何でだろ?ホントは分かってる気付いてる。アンタの喧しい陽気な声聞きたいんだ優しい笑顔見たいんだ。アンタに会いたいんだ少しでも一秒でも一瞬でも早く会いたいんだ。会いたいんだよ、ザックス。

 ……どうせ見逃せない大穴チョコボレースがあるんだとか何とか言ってゴールドソーサーにでも行ってるんだろうけれど。

(毎回毎回懲りずに次こそ今度こそ当たったら何でも買ってやる奢ってやる、ってその前に金返せよ!)

 感情にまかせて握り拳作って壁殴って苛つく焦る気持ち紛らわせる。苛々してる会いたくて会いたくて禁断症状。オレっていつからこんな女々しくなったんだろう? 弱くなったんだろう? 昔はこんなんじゃなかったのに。セキニンとってよアンタのせいだよセキニンとってヨメなりムコなりオレを貰ってくれよナンテどうでもいいこと考えて現実逃避。あぁぁ泣きそう。ツマンネー。

 そうだよオッシャルとおりだよ知ってマス知ってるよ分かってんだよ。アンタが何処にいるのかぐらい分かってんだよ本当はサイショっから気付いてるよ!!
 任務から帰ってきた夜のアンタは決まってセフィロスのところ。被害者ぶった表情晒してお互い傷舐めあって一晩中ソファの上でバスタブの中でベッドの上で一晩中慰め合って、アンタはセフィロスの孤独癒してそしてアンタはセフィロスの腕の中でアンタはアンタに戻る。誰にも邪魔できない儀式。優しいいつものヤサシイアンタに戻るための、……偽りのザックスに戻るための儀式。



 ザックスは綺麗すぎるんだ賢すぎるんだ優しすぎるんだだから生きてゆけないんだこんな腐りきった世界では。生まれてくる時を生まれてくる場所を間違えてしまったからだから本当に生きてゆけないんだ。生きて、ゆけないんだ。苦しいだろ? イタイだろ? 悲しいだろ? それでも生きてゆかないといけない理不尽だけれど納得いかないと思うけれど今はまだ。
 最悪の結末のために。

 セフィロスはザックスに生き方を教えた。偽ることを嘘を目を背けることを耳を塞ぐことを心を閉ざすことを教えた。綺麗な綺麗な羽根もぎ取って切り裂いて細い手足折って逃げぬよう決して何も見えぬよう聞こえぬよう感じぬよう閉じこめて鎖で繋ぎ止めた雁字搦めにねじ伏せて。仕方なかった綺麗なままでは決して生きてゆけないのだから。ザックスの心は壊れてしまった狂ってしまったザックスはザックスではなくなってしまった。それは仕方のないことだった本当に仕方のないことだった。



 人波の間に黒髪の後ろ姿ようやく見つけ顔が綻ぶ。苛々した気持ちが嘘のようにスッと昇華される。周りを取り囲むクズ野郎共にもこれっぽっちも気にならない程最高に気分がイイ。朝から動かし続けた足止めて愛しい愛しい人の名を叫ぶ。愛しい人が振り返る。

「よぉ、クラウド」

 笑顔オレだけに向けられる笑顔。右手軽く上げてオレの元に小走りに歩み寄る。すぐ傍まで来てオレの髪くしゃくしゃに掻き回して、元気だったか?って目覗き込んでくる。襟元に見える赤黒い痣数えて喉元まで出かかった不平結局飲み込んだ。代わりに怒った顔嫌そうな顔少しして髪の乱れ直してから甘えてみせる。

「まえ、約束しただろ? ……帰ってきたら、メシ奢ってくれるって」
「そ、そうだっけ……?」
「そうだよ。もしかして、忘れたの?」
「……あ、あぁ。そうだったな、思い出したよ。忘れるワケないだろ」

 嘘。そんなヤクソクしてる訳ないじゃんホント調子良いんだからアンタって。
「ハヤク行こうよ。オレ、ハラ減って死にそう」

 愛しい人の腕引っ張ってラウンジへ。アンタはしょうがないなって苦笑しながらおとなしく引っ張られるままになっている。アンタの姿に気付いて誰もが声を掛けたそうな顔するけれど今はオレだけのものだからダメだよ。


* * *


「……任務、どうだった?」

 アンタの顔が少し曇る。優しいおヤサシイ愛しい人はヒトゴロシは出来ないいつも心を痛めてる。仲間を止めようと縋りついてる。涙をいっぱい溜めて。

 今回の任務でも沢山の本当に沢山の死者が出た。

「……仕方ガナカッタンダヨ」

 オレの言葉にアンタは何か言いかけて口を閉ざした。長い睫毛伏せて悲しそうな表情するから、思わずその震える躯抱きしめた強く強くアンタはオレの腕の中でじっとただ呼吸をしている。

 ウータイエリアの南部は一面血の海だった。死体はその殆どが原形を留めていなかったヒトの形をしていなかった。手足は切断され内臓は辺りに飛び散り踏み躙られ頭部は潰され脳漿が溜まりを作り眼球は丁寧に刳り抜かれ堆く積まれていた。酷い有様だった地獄のようだった。処理班の何人かは壊れてしまったそして誰にも知られず処理されてしまった。

「ザックスは、何も悪いことしてないよ?」
「仕方ナカッタンダヨ」

 それが全てアンタの仕業だったとしても。そのアンタのお綺麗な心を苦しめている極悪非道なヒトゴロシがアンタの仕業だったとしても。その手がもう拭いきれないほどの夥しい血で濡れているとしても。結局仕方のないことなのだ。どうもこの世の中は仕方のないことだらけで、汚れたオレですら程々嫌気がさしてくる。



「仕方ガ無カッタンダヨ。ざっくす。……あんたハ何モ、悪クナイノダカラ」



「爽やかな風の吹くところ」 2001.04.28
 
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