アハハ!! イマサラそのナニをもってヴァージン気取りでも?! 頬赤らめちゃったりして、アンタってかーいいのな。足りないだろ?もっと奥までイれて欲しいんだろ? 力ぬきなよ。そんなに締めつけたら壊れちゃうよそのお気に入りのオモチャ。……あはは、死人相手にそこまでよがれンのってアンタぐらいじゃない? ケツ振ってやらしーカラダなのなアンタてば。リノリウムにちらばる黒髪踏みつけてその傍にしゃがみこみ、前髪掴んで顔を上げさせ。ソルジャーになったら俺と離れられる、なんて思ってるわけないよね、耳元に囁く。目ン玉蒼くなったってアンタはアンタだろ? 俺から離れられると思ってたら大間違い、ダヨ。

「……ヤっ、……クラ、」

 拒み厭い顔を背けようとする、そのあごを強く掴んで口を開かせ有無を云わせずつっこむ。歯たてたらダメだよ、黒髪見下ろし見下し笑顔で忠告警告命令。涙滲ませ苦しそうに呻きながら押し返そうとする舌の感触すら快楽悦楽恍惚ゾクゾク。穿つ玩具の角度を変え奥へ奥へと突きたて抉り。後ろ手で拘束された手首の摩擦傷、きつく握り込まれたてのひらに爪が喰い込み赤いアカイ鮮血が背骨にそって艶やかに流れ落ちる。その様にうっとり光悦とした視線、口腔内犯し貪り何度も幾度も喉まで突きたて突きいれ。咳き込み噎せ込み白濁の体液吐き出そうとする黒髪に。

「飲めよ!!」

 乱暴なくちづけ。一滴残らず嚥下するまで一切の抵抗も呼吸すらも赦さず長い長いくちづけ。掴んでた手をはなすと支えを失った躯は床に崩れ落ち。苦しそうにつらそうに喘ぐ咳き込むぐったりとした黒髪に少年は覆い被さる。汗でしっとり吸いつく頸にねっとりと舌を這わせ。くっきりと鮮やかな赤黒い痕に、所有印にギリリと歯をたてる。

「俺のこと、全部受け入れてよ。ねぇザックス。オネガイだから」

 アイシテイルんだアイシテイルんだよアンタをココロから誰よりもアノヒトよりもずっとずっと。からだから俺を受け入れてよ全部ゼンブ受け入れてよ。 ……オネガイ、……だから僕を。



 ……スキだったらアイシテイルからナニをしてもイイのかって? アンタ、バカ? ンなの、あたりまえじゃん。アイツを手に入れるためだったらなんでも、なんでもしてやるアイツを俺のモノに出来るなら出来るのならなんだってなんだって!! なんだって、……したいのに。なにも出来やしナイ見つからナイ勝ち目などナイナイナイ何にもナイ!! 何もかも犠牲にしても俺のいのち代償にしても、アイツを手に入れることは出来ナイ。所詮かなわナイ叶わナイ敵わナイ。なンせ相手はカミサマときたもンだ。まったくのひとりずもう同じ土俵にすら立てやしナイ、なんて。……俺ひとり藻掻いて足掻いてバカみたいだ滑稽だかっこわるサイテー。 ……あーあ、ほんとヤんなる。


* * *


「ザックス、……何故ヤツを庇う?」

 少年の狂妄はとどまることを知らないどころか、ますますエスカレートし。フィストセックスとはタチの悪い。内臓の破損が酷く出血が止まらない。いくら強靱な精神力と肉体を誇るソルジャーとはいえ、こんなことを続けていてはいずれ……。
「別に、……庇って、なんか」
 ざらざらに掠れきった声音。

「この行為は、双方合意の上で、と云うのだな?」
「そ」
「痛くされるのが、好きか?」
「そ、かも……」

 痛々しい笑みに眉を顰める。自虐的な自嘲的な言葉に苛ついて聞きたくなくてくちづけ。指で舌で輪郭をなぞりながらそのまま下肢へと。黒髪の拒む手がつっぱる腕があまりに弱くて、弱すぎて頼りなさすぎて、男はいたたまれなくなって躯を離した。

「……セフィ、ロス」

 きつく閉じられた瞼、かすかにふるえる睫毛。あやすように宥めるようにそのうえにてのひらを置いた。

「いいから、眠れ」

「セフィ、……。俺、」
 俺、は……。涙が頬を伝い流れ落ちる。

 ……ヤツを“救って”やりたい、だと。馬鹿馬鹿しい。自惚れるのもいい加減にしないか。
 ひとがひとを“救える”とでも?



 こんな日がいつまで続くのだろう。苦しくてクルシクテ狂いそうで狂ってしまいそうで。果てしなく続く拷問のような日々。……そうじゃない。いつかは終わるのだろう終わるのか終わらせるのかわからないけれど、いずれ必ず終焉があるそれは多分、そう遠くない先に。終わりがある。永遠などあるわけないのだから。いつかは終わる、……解放、されるの?いったい何から? きみがいなくなる僕の傍からきみがいなくなる? 怖い恐いコワイ。きみの傍にいたら苦しいつらい。なのに、きみがいないと駄目なんだダメなんだ! 息も出来ない生きてけない、……死んじゃうよ。こんなことならいっそきみと逢わなきゃよかった。どうしようもない劣等感気が狂いそうな喪失感、きみへの強すぎる執着心。きみと逢わなきゃよかったんだ。逢わなかったらこんな目にはこんな想いを……。違う!! きみと逢えてよかったんだ。きみと知り合えた声を掛けてくれた名前を呼んでくれた、きみが傍にいてくれたそれだけでよかったんだ。……僕はただ、きみの傍にいたかった、だけなんだ。例えきみに必要とされていなくても。傍にいたかった、なのにでも。それはこんなにも苦しくて悲しくて。……どうして僕じゃダメ、なんだろ。ねえザックス。どうして僕じゃ、ダメなんだろ?

「……クラウド」

「哀れんでるの?憐れみなの?同情なの? ……そんな眼で見ないで、見ないで見るな見るな見るな!!」

 魔晄色に染まった眼球に華奢な指が喰い込む。やわらかなモノが潰れる音、感触。アカイ鮮血が幾筋も幾筋も頬を伝い流れ落ちるそれはまるで涙、のように。

「ザックス、…………タスケテ」 

 藻掻けば藻掻くほど足を取られ泥沼。助けて助けてよ。縋りつく眼に切実な言葉に、黒髪はやわらかく微笑み、……そして。小さく頷いた。

 アイシテイルアイシテイルからだからオネガイもっとアンタのなかに俺をアンタのなかにはいらせてよもっともっと。浅黒い膚に刃先をあてがい滑らせる。肉を裂き硬質な骨にあたるその奥の奥までこじ開け。溢れる鮮血。あかく染まった指を這わし。舌を這わす舐める味わう喰らう。アンタとひとつになりたい。アンタのすべて何もかも欲しい。アイシテイルアイシテイルからだからオネガイ全部アンタの全部ゼンブ俺にちょうだい。指で舌であらゆる器官を使って侵蝕する。足の間に躯を割り込ませ、腰をすすめる最奥まで穿つ。もはや黒髪は一言も言葉を発しなかった。悲鳴ですら嬌声でさえ、発することは出来ず。ぱっくり開いた喉からアカイ液体とともに空気の漏れる音だけが繰り返しくりかえし。意識はココロは乖離しているのかその赤く濡れた息遣いはただただ淫らで艶めかしく、少年は狂ったように貪りくちづけを落とす。


* * *


「これが、オマエの云う、“救い”だというのか」

 男はきつくきつく唇をかみしめる血が滲むほどにぎりりと。後悔は先に立たず前に立たず後になって気付くもので、その時になってどれだけ悔やんだとしても後の祭り。男が彼らを見つけたときには、酷い有様だったもはや手遅れだった。躯中を口元を真っ赤に染めた少年は男の姿を認め嗤った嘲るように勝ち誇るように。思わず背筋にぞくりと悪寒が這いあがる。狂ってる、正気の沙汰じゃない。思わず刀の柄に手をかけようとした男を制したのは黒髪だった。かろうじて残った右の腕で華奢な躯抱きしめる。それはまるで、少年を守るかのように。

 くだらない、男は吐き捨てた。

 白衣は床に転がる肉片と化した黒髪を興味なさげにみおろし、やれやれと肩を竦める。
「“救われ”たのは、どっちなのかね」
 ご覧よ、このまんざらでもない表情を。アイシテイルアイシテイル気が狂うほど一心に求められ追いすがられあまつさえその者の手に掛かって死ねるだなんて、さぞかしシアワセだったろうね。

 少年の望むまま欲するままにすべてを惜しみなく与えた黒髪の抜け殻から、男は視線を逸らし背を向けた。


 死がおまえにとって“救い”だったというのなら。なんと、愚かな…………。


* * *


 暗い昏い牢獄のなか。クスクスと可笑しそうな笑い声。愛する親友を手に入れ、蒼い瞳を持つ少年はシアワセな妄想に耽り続ける。親友をその手に掛け、英雄などとうに存在せぬのに。虚像はいつのまにか現実とすりかわり。精神を破綻した少年は、やがて星一個景気良くぶっ壊すことになるというのだから。さすがに開いた口が塞がらない。



「憐れみの気持ち」 2002.02.18
 
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