禍々しいほどの炎の中で白銀の刀身が煌めく。白光の一閃が空間を時空を裂いて。刹那、凄絶な波動が迸る。視界を覆い尽くす圧倒的な、光量。眼球を焼き尽くすほどの、ヒカリ。網膜に映る鮮やかな緋の残像は白銀の軌跡に絡み付き。艶やかに、いっそう美しさを際立たせる。

 黒衣の剣士はどこまでも気高く誇り高く、そして美しい。紅蓮の炎に煌めくは、月光の滴の如く白銀の髪。双眸の瞳は蒼い蒼い光輝を宿す。星の、全生命の源であるヒカリ。魔晄、という名の光彩。闇よりも深いその「存在」は、同時に気高いヒカリをも持ち合わせて。奇跡に近い確率でうつせみに在す。その姿、どこまでも気高く誇り高く。


 そして、限りなく美しかった。
 もはや人間であることをやめたその「存在」は、
 確かに、綺麗だった。




「………ク、……ウド」
「ザックス!! 喋らないで!」
「…………ク、……ド。 …………アイツ、を。ころ、………、くれ」



* * *


 腹部からの出血が止まらない。何とか傷口を掌でおさえるけれど血が後から後から溢れてくる止まらない。ソルジャーなんて大層なこといってるけど莫大な金も犠牲も地位もプライドとやらも注ぎ込まれているのかもしんないけどソルジャーの躯なんて結局こんなもン。確かに常人よりは少しは頑丈に出来ているみたいだけどさ。肝心なところではからっきし駄目。全くのお粗末。役立たず。まぁヒトゴロシのために造られた躯だから仕方のないことだと云えばそうなのだろうけれど。あんだけヒト殺しといて大切なタマシイ奪っといて誰かをアンタを守りたいだなんてアンタを救いたいだなんて何をイマサラ。なんてゴッツゴウシュギ。むしがヨすぎ。 …………ホントいまさら。

 ……なぁ、旦那。アンタのそばにイきたいんだけれどその危なっかしいモノしまってくれる? そんなモノこっちに向けないでよ? ホントはねアンタのこと今この場で力尽くでひきずりたおしてねじふせて犯してやりたい気分なんだけれど。どうも出来そうにないねこんな躯じゃ。今のアンタすげッソソられる。あははヤだなぁソンナ眼でオレを誘わないでくれる? ムラムラしてくるからサ。あーあもったいねェほんと。 ……アンタはやっぱすごいよお見事だよ。あぁアンタは人間じゃないからね。われわれイッパンジンとは違うんですモノね。「英雄」サマさま。アンタすごすぎてまじ泣けてきそう。 おめでとおめでとう。アンタは選ばれたんだよ。にせんねんぐうたら眠りこけてるしわくちゃババァにあんなバケモノなんかに、選ばれて。私が貴方のママよって感動のご対面ってヤツ。あはは、おめでと? なぁ旦那アンタうれしいんだろ? だったらそんな真面目くさったツラ拝ませないでよ。もうちと愛想良くしてみてもイイんじゃない? そうだろ? あーあ何か喋ってよ虚しいツマンネー。……なぁそれにしてもさ。コレって誰が仕組んだの? ハカセ? それともカミサマ? ハシにもボウにもかかンないこのシナリオ、考えたのだれ? とんだ茶番劇。こんな結末しか用意されてないなんてとんだ茶番劇。アンタもそう思うだろ? あははは可笑しくてオカシクテはら捩れそ。あ、やべぇマジ腸はみだしてきた。なぁアンタがいつもいっつもつっこんでた部分ってどこらへんなのな? こン中ってアンタのセイエキがこびりついてそうべっとりとはりついて、…………もったいねぇしまっとこ。ごそごそ。……なぁ何か喋ってくンない? おれさっきから独りで喋りっぱなしでなんかカワイソ。ヤバイ奴って思われてる? アンタの声聞かせてよ。俺のはそんな長くねぇとかこう右手でビシってつっこんでくれてもいいのにさ。あははは、はは……はぁ。くだんねくだらなさすぎ。つまんね。…………なぁ旦那ァ。おれマジでヤバそうなんかもうダメみたい。もう無理っぽい。……ねぇ、最後のおねがいなんだけど。アンタのそばにイかせてくれない? アンタのそばにイかせてくれよ。なんか視界ぶれてアンタのそのお綺麗な顔よく見えないのヨ。もっとアンタのかおよく見させて最後までアンタのかお拝ませて。アンタの傍にいたいのよ。お願いおねがいおねがいどうかどうかどうかどうかどうか。最後のオネガイだからどうかどうかアンタの傍にいさせて。アンタの傍にいさせてクダサイ。最後の最後までどうかどうかオネガイだから。

 アンタの傍に。オレを、イかせて。

 …………アンタの傍に。アンタと一緒に。オレも、逝かせて。





それは、
それは、種族の違い。
それは、根本的な「存在」の差異。
それは、遺伝子に刻まれていること。
それは、細胞の全てに命ぜられていること。
それは、事実。
それは、紛れもない確かな真実。
それは、どうしようもない、
現実。






 「……ク、……ウド」
 「ク、……ド。 …………アイツ、を。ころ、………、くれ」
 「た、のむ。……アイツ、を……、セフィロスを、……殺さないで、くれ!!」






 ねぇ、旦那。アンタを愛してるんだ。
 だから、アンタは生きていて。



「喧しい遺言」 2001.09.02
 
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