ねぇ、アンタのことすごい好き。ほんとにホントに好きなんだよ。でもアンタの考えてること分かンない。なんにも分かんないよ。こんなに好きなのにアンタのことこれっぽっちも分かんないんだ。アンタもおれのことこれっぽっちも分かってくれない。なんで分かんないの? こんなにこんなに好きなのに。 アンタのこと好きなのはホント。なのに言葉にしたらウソ。なんでだろ。この気持ちってほんとにホント? アンタに伝わらないんなら、この気持ちに何の意味があるの? ただのひとりよがりじゃない? こんなに好きなのにどうして伝わらないんだろ。アンタとネたら伝わる? なんなら一緒にネてみる? おれ、じょうずだよ? こっちの方はテクニシャン。おれ馬鹿だからさ。アタマでいっぱいいっぱい考えたんだけれど。……ムヅカシくて。 「……ザックス」 待ってちょっと待って考えるから。もっと考えるから。分かるはずなのに。アンタのことこんなに好きなんだからわかるはずなのに。……はず、だから。 「ザックス!」 暗い闇より深い漆黒の瞳がこちらに。上目遣いに。不安げな眼差し。 「な、なに?」 「うるさい」 「ご、ごめん。ごめんなさい。ごめん静かにするから、……からどうか、捨てないで」 ごめんごめんね。涙うっすら浮かべながら。哀願。その舌の根の乾かぬうちにまたしても好きだよ好きだよでもアンタのこと分かンないんだ、と。何度も繰り返し繰り返し。 * * * 「あっ! ザックス!!」 ジュノンの薄暗い通路に反響するほどの大きな声が、その背中に。自分の兵舎に帰ろうとしていたその足が止まる。振り返るけれど逆光になってその表情は見えない。黄金の髪がきらきらと西日に煌めく、親友のルームメイトの姿。 「よぉ、クラウド」 「よぉッじゃないよ。 何処行ってたんだよ?!」 「何処って、……本社、に」 親友のひどい剣幕に圧倒され思わず数歩後ずさる。ちからいっぱいその腕掴んで。 「今日。ソルジャー第参次審査!! って知ってた?!」 コクコクと頷きながら落ち着けよって宥められ。落ち着いてなんかいられないよ! なんで知ってンなら本社なんかに!! 「……別に、おれはソルジャーなんてなる気ないし。……それに、セフィロスが、」 「な、なんだよ。なんだよ! いっつもいっつもクチ開いたらセフィロスセフィロスって! そればっか! 俺の気持ちなんてぜっんぜん分かってないんだから!! 俺が! ……どんな気持ちで、」 「……クラウド?」 「バカ。 馬鹿ザックス! わからずやッ!!」 その腕を思いっ切り引っ掻いてついでにその足にケリを入れ。そんでもって噛みつくような、キスを。 馬鹿ザックス。 ……なんで、分かんないの? 「なんで、分かんないの?」 ちゃんとこっち向いてよ。こっち見てよ。おれを見てよ。おれだけを見てよ。ちゃんとおれの話聞いてよ。ねぇお願いだから、ちゃんとおれを見て。 「ちゃんと喋ってよ」 「話しているだろうが」 「うそ。いっつもいっつもムヅカシイ単語ばっか並べて」 いじわる。おれに分かんないようにそうやって。アンタの言ってることちっとも分かんないよ。アンタのことこれっぽっちも。 ……いじわる。 「…………。」 あいつ部屋から出てこないんですヨここ最近ずっと訓練にも講義にも出てこなくて見てなくてコム何回もならしてるんッスけど全然、とザックスのパートナーである男が。朝早く叩き起こされ何事かと思えばたかがそんなことで、ほっとけと一蹴し執務室に戻るとヤツの隊長である男が相談があるのだがと同じ話を繰り返し聞かされ。私はいつからヤツの保護者になったのかとうんざり。ヤツの尻拭いばかりでとんだとばっちり。 溜息混じりマスターキー手にヤツの部屋に足を踏み入れた途端、噎せ返るような血の臭い。ドラッグを取り上げるといつもこうだ。のちのち面倒なことになると刃物の類も取り除いたはずだったが。その手元を覗くと小さなガラスの破片。まだこんなものを隠し持っていたのかと、溜息。手首には何十何百もの傷跡。ご大層なこった。死にたければいっそう頸でも切り落としてくれればこちらとてせいせいするのに。 「ザックス。おい」 さほど手加減もせず両頬を叩くと、睫毛が細かく痙攣し暗い漆黒の瞳がぼんやりとこちらに。蒼白な膚に赤い体液と長い黒髪絡み付かせ媚びるように見上げてくるその様はまるで。 「セフィ……」 あまいあまい吐息。 「ザックス。ほら立て」 有無を云わせぬ力で腕を取り立ち上がらせ、片手で尻ポケットからポケコンを取り出しラボへの連絡を。 「いやだ。イヤだ!! ラボなんて行きたくない! 誰にも会いたくない!!」 「何を……、」 「アンタだけでいい!! 他のヤツらなんて! アンタ以外誰も!!」 ちからいっぱいしがみつかれ苦々しく溜息。お前はいつからミザントロピーにでもなったというのか。なんて愁傷な。 ……だがな、ザックス。それは今更というものだろう。 「アンタをアイしてるんだ。アンタだけを。 本当にホントに……」 繰り返し繰り返し。 ……それこそ、今更だろう? * * * その瞳が気に食わなかった。父親を殺され母親を殺されその返り血で染まったヒトゴロシの姿だけをその暗い漆黒の瞳に焼き付け、映し出すその存在が気に食わなかった。虚空を眺めるその眼が無性に。 事件の真相を知る者全て皆殺しに。おんなこどももちろん目の前のこの少年ですら例外ではない。ずっしりと血に染まった刀身が煌めくと同時に。 「待てよ。そいつは殺すな」 「何故だ」 「何故って? それはな、アンタが英雄だからさ」 命がけで子どもの命を救ったとなるとアンタの株も上がる神羅サマも同様、万々歳ってやつさ。そうだろ? ゴンガガという小さな南の村で魔晄炉爆発があったのは今からちょうど5年前。報せをうけタイミング良くたまたま近くを通りかかったセフィロス隊が迅速な行動でその対処にあたった。しかしそれもあと一歩及ばず村の大半は焼き払われ生存者はわずか一名というありさま。年端のいかない黒髪の少年を腕にかかえ炎から出てきた英雄の姿は大きくメディアに取り上げられ人々の賞賛と涙を誘った。神羅は魔晄炉爆発事件をアバランチの仕業とし、深い哀悼の意を表明するとともにアバランチの壊滅に全力を尽くすと白々しく公式発表。事件の真相など闇に葬られ誰にも知られることなく。 意識を取り戻した少年は一切の記憶を失っていた。誰に対しても何に対しても何の反応も示さなかった少年は銀髪の英雄の姿にだけその細い腕を伸ばした。一体これは何の冗談だと睨みつけるものの、宝条は防御機制が働いたのだと一言。現実を受け入れるにはあまりにも幼すぎたのだよ、と。なるほど人間というものはなんと便利なつくりをしているものか。見たくない現実をねじまげ都合の良いニセモノの妄想を創り出す。その感情すらも。 「好きだよ好きなんだ。セフィロス」 そうやって自分にいいきかせているのか。そんなに何度も何度も己に思い込ませないといけないほど、お前は私を……。 「ち、違うよ!! 違う違う。なんで分かンないの?!」 「お前の方が、……よっぽど」 こんな世の中信ずるに値するものなど何一つあるまいに。 お前は何故にそんなことすら、分からないのだろうか。 「わからずや」 2001.09.18 Illusted by Ms,Kaoru Niemi. Thank you so much. |